――――爆音が轟く!

 生きとし生ける者、全てを焦がし尽くさんとする、紅蓮の焔が立ち上る。
 空に瞬く星々を隠してしまうかのように、夜の闇は血脈の如き紅に染まり、緑なす草原を過去のものとした。
 平和な日々を望み、生きてきた者全てを脅かす、地獄絵図。
 奇々怪々に跳梁跋扈する鋼鉄の異形達がひしめき合い、破壊の限りを尽くす。

 災害のような猛威が振るわれるその中心に、彼は――――いや、彼等はいた。
「――――てめぇらっ、あっちへ行きやがれ!」
 聳える黒鉄、紅き胸部放熱板、頭頂に鎮座するパイルダー。
 そう、それはあたかも鉄の城。
「ロケットパンチ!!」

 ――――ゴゥッ!! ドンッ!!

 猛る轟音と共に打ち出された鉄の巨人の腕が、象を模した異形の巨体を、いとも容易くぶち抜いた。
「行くぜ、マジンガーZ!」


 【スレイヤーズ CROSS!】 〜第2章 Fire Wars!!〜

 日本の平和の砦、光子力研究所の総司令部、メインスクリーンを前にして、光子力学の権威である弓教授は静かに戦いを見守っていた。
 自分に出来る事は、日々の期待のメンテナンスと、性能の追求のみ。
 こうして戦いが始まってしまえば、後は二人の若者を信じるだけだ。
「…………頼んだぞ、甲児君、鉄也君」
 呟いたその目に映るスクリーンの中、兜甲児が繰るマジンガーZは、まさに魔神の如き戦いぶりであった。

 死神を模した異形が頭の鎌を振りかざして襲い来る。
 しかし、マジンガーZの頭脳である兜甲児は慌てない。
「遅ぇんだよ、ドリルミサイル!」

 シュオッ!

 ロケットパンチを打ち出したその手首の先から、無数のドリルが飛び出し異形の顔に突き刺さる。

 ドォォォォンッ!!

 激しい音と共にそれらが一斉に爆発し、異形が仰け反る。
 ロケットパンチが戻ってきて、再びマジンガーZとドッキングしたのはこの時だった。
 動きを止めぬそのままに、マジンガーの巨体が地を駆ける!
「――――おぉぉらぁぁあぁっ!!」

 グシャァァァンッ!

 マジンガーZの一撃を受けて、けたたましい音と共に異形は首を吹き飛ばされ、その場に崩れ落ちた。
「へんっ! 機械獣どもがいくら来たって、俺達には勝てねぇよっ!」
 そう高らかに叫んだ時、あらぬ方向から無数のミサイルが飛んでくる。
「うおっ……!?」

 ドオオオオオオオオオンッ!!

 数十に登る数の小型ミサイルの直撃を受けて、しかし鉄の城は揺るがなかった。
「――――超合金Zは、そんな攻撃じゃびくともしないぜ! 倍にして返してやるよ!」
 そう言うと、マジンガーZは猛々しく両腕を上げる。
 同時に、胸の放熱板がス産示威勢いで赤熱する。増幅された光子力は、とてつもないエネルギーを生み出し――――
「…………これでもくらえ、ブレストファイヤー!」
 甲児が叫ぶと、放熱板から炎にも見える真っ赤な光線の束が迸った。
 そして、目標にしていた異形――機械獣に届くと、みるみるその身体を溶かしていく。
 しかし、一見無防備なマジンガーZの後方から、新たに迫る機械獣の影があった。
「げっ…………やべ…………」
 後方から近づいてきた機械獣が至近距離からほとんど捨て身でミサイルを撃とうとした時――――

 ――――ヒュォォォオオォォォ…………ガギィンッ!!

 天から飛来した、大きく開いたVの字の物体が、機械獣を切り飛ばした。
 それは放物線を描いて天へ戻っていき、雷雲立ち込める空に佇む巨体の手に収められた。
 巨体はそれを自らの胸にはめ込むと、更に天高く腕を伸ばす。
 ――――それは現か幻か。
 周囲を荒れ狂う稲妻が、その指先に収束し、より一層、激しさを増した。
「サンダーブレーク!!」
 猛り狂う雷槌はその猛威を以って地表をなめまわし、なおもマジンガーZに迫ろうとしていた三体の機械獣を一気になぎ倒した。
「甲児君! 油断大敵だぞ!」
「さんきゅ、鉄也さん!」
「空の機械獣どもは片付けた! 一気に行くぞ!」
「おうよっ!」
 天より降りた偉大な勇者、グレートマジンガーがマジンガーZの横に降り立ち、共に両腕をかざす。
「ドリルプレッシャーパンチ!!」
「アイアンカッター!!」

 ――――ゴウッ!!

 同時に放たれた四つの拳が、前方から来ていた二体の機械獣の腹をそれぞれぶち抜く。
 機械獣が倒れるのを確認すらせず、二人のマジンガーは身を翻す。
 再び、甲児と鉄也がシンクロした。
「ルストハリケーン!!」
「グレートタイフーン!!」
 翻したその先にいた数体の機械獣を、凄まじい酸の嵐の猛威が蹂躙する。
 あるいは錆び付き、または朽ち果てゆく機械獣の中を、古木をへし折るが如くマジンガー達が突き進む。
「よし、仕上げだ甲児君!」
「オーケイ、鉄也さん!」

「…………うぬぅっ……マジンガーどもめ……!」
「このままでは…………またDr.ヘルにお叱りを…………!」
 はるか上空を駆ける飛行要塞グールの中、次々ともたらされる被害状況の報告に、アシュラ男爵は憎々しげに臍を噛んだ。
「こうなったら……私自らが…………」
「アシュラ様っ!!」
 危険な決意を瞳に宿したアシュラの耳朶を、殆ど悲鳴のような鉄仮面の声が打った。
「何事だ!?」
「マ……マジンガーがっ!!」
『――――――――っ!?』
 メインスクリーンを見たアシュラの二つの顔が、同時に凍りついた。
 そこに写っていたのは、まさにグールの目の前で両腕を広げるグレートマジンガーと、
 ジェットスクランダーを駆り、グールの後方で両腕を掲げるマジンガーZの姿だった。
 二体とも、胸部放熱板を紅く光らせて。
「な…………奴等いつの間にっ!?」
「いかん、グール、緊急かい……!」
『ブレスト――――』
「ファイヤー!」「バーン!」

 ――――カッ!

 視界が眩く光り、同時に暗転した。
 グールの電子回路の細部が熱で焼き切れ、激しいショートを引き起こしたのだ。

 ドォォォォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!

『――ぅぅぉぉあああぁあぁぁぁぁっっっっ!!?』
 アシュラの悲鳴と共に、グールは爆発、四散した。
 それを見届けて、マジンガーZとグレートマジンガーはがっしりと手を合わせた。

 ピピピッ。

『――――甲児君、鉄也君、二人とも良くやってくれた。帰還してくれ』
「あいよっ!」
「了解」
 その通信を聞いて、二体のマジンガーは研究所へと戻っていった。

 二人を出迎えたのは、気の置けない研究所の面々だった。
 教授の娘にして、甲児のガールフレンドでもある弓さやかが、人目もはばからず甲児に飛びつく。
「甲児君、おかえりなさい! おつかれさま」
「ただいま、さやかさん! あのくらい全然大した事ねえって!」
 さやかの手前、気軽に言ってのける甲児だったが、鉄也から、からかうように混ぜ返される。
「ふっ……その割には途中危ない場面も有ったようだがな」
「あたー……細けーなー、鉄也さんは」
 助けられた身としては何も言えず、甲児はバツ悪く頬を掻くだけだ。もっとも、鉄也も本気で言っているわけではないのだろう、口の端だけで、シニカルに笑っていた。
「おーう御苦労だったなぁ、兜、鉄也!
 俺のボスボロットがメンテ中でなければ、あんな奴等俺様が一網打尽にしてやったんだけどな!」
「へっ、操縦室の畳取り替える事のどこがメンテなんだよ!」
「なんだよ! メンテはメンテだろうが!」
 いつも通りの悪友との会話。そこに弟のシローが割り込んできた。
「しっかし、アニキも鉄也さんもすげーや!
 あんだけの数の機械獣を、いとも簡単にやっつけちまうんだもんな!」
 興奮気味のシローの言葉に、教授もまた追随して――――
「確かに、今回の奴等の攻撃は総攻撃とも言えるものだった。
 あれだけの数の侵攻を研究所に被害を出さずに食い止められたのは、僥倖だったよ。
 さすがだな、二人とも。今日はゆっくり休んでくれ」
「……ですが逆に気になります。
 あれだけの侵攻だった割には、数は多かったものの、強力な機械獣は一体もいなかった。
 でなければいかに俺達でも、もう少し苦戦していたでしょう。
 何か他に目的が…………」
「うむ、確かにそれは有りうるな。
 しかしこうして考えていても始まらない。
 何が起きても、迅速に対処することが大事だろう」
「――――そうですね。では、いつでも出られるように身体を休めておきます」
「おおい鉄也さん、飯食いに行こうぜ!」
 弓教授と話をしていた鉄也だったが、後ろからかけられた声に一つ苦笑した。
「まったく、あいつには緊張感と言うものが無い」
「まあ、甲児君はそれが強さでもあるからね」
「分かってはいますが……」
「鉄也さーん!」
「……今行く! 少しは待たんか!」
 言いながら、鉄也は弓教授に一礼すると、甲児達の元へと駆けていった。

 ――――鉄也の考えは間違っていなかったのだ。

 この夜、日本の砦――――光子力研究所は最大の危機を迎える事となる。


 ガァァァァァアァァァァァァァァンッッ!!!!

「なんだっ!?」
 夜、自室で眠りに着いていた甲児は、激しい轟音で飛び起きた。
 すぐに部屋の外に出ると、顔面を蒼白にしたさやかが駆けて来た。
「こ……甲児君っ!」
「さやかさん! 一体何が有ったんだ!?」
 甲児の問いに、さやかは青い顔のまま、唇を震わせて答えた。
「ま、マジンガーZが……アシュラ男爵に……!」
「なんだって!?」

「ふはははははははははははは!!!」
「ついに我らが悲願、成就せり!」
『手に入れたぞ! 鉄の城を! マジンガーZを!!』
 アシュラの高笑いと共に、マジンガーZの四肢が研究所を蹂躙する。
「この力、さすがだ!」
「まさしく我らの世界征服の礎となるにふさわしい!」
 なおも暴れ、内側から研究所に破壊の限りを尽くしていたアシュラだったが、
 不意に手を止めると、研究所の外へとマジンガーZを動かした。
「手始めに、忌々しい光子力研究所を、光子力ミサイルの一斉射撃で滅ぼしてくれるわ!」
「そうはさせん!」
「むっ! 剣鉄也かっ!?」
「そうだ! お前の相手は、この剣鉄也とグレートマジンガーがしてやるぜ!」
 研究所の外に一時避難していた面々の前で、アシュラ駆るマジンガーZの前に颯爽とグレートマジンガーが立ち塞がった。
「鉄也さん、頼むぜ! おじいちゃんのマジンガーZを悪魔にしないでくれ!」
「おう! 元々グレートの方がスペックは上だ!
 それに甲児君が乗っていないマジンガーZなど、取るに足らんさ!」
 自信に満ち溢れる鉄也に対し、アシュラはしかし、余裕に満ちた邪悪な笑みを漏らした。
「くくく……確かに、マジンガーの操縦では、元よりお前達に勝てるとは思っておらぬ!」
「だがしかし、マジンガーZを奪っておいて、グレートマジンガーをそのままにしておくとでも思ったか!」
「なにっ!?」

 ドンッ!

「ぐあっ!?」
『鉄也さん!?』
 コクピット近辺で突如起きた小爆発の後、グレートマジンガーの巨体が大きく揺らいだ。
「が…………」
「ふはははは、どうだ! 新型小型爆弾の味は! 殺傷能力こそ低いがこの隠密性よ!」
「その傷では満足に戦えまい! グレートマジンガー!」

 ガァンッ!

「うおっ……!」
 突進してきたマジンガーZをかわせず、グレートとZはもんどりうって倒れる。
「な、なめるなっ!」
 それでも、鉄也も負けじとグレートを駆り、Zを突き放す。
「ぬぅ……!」
「ぐ…………」
 しかし、動きが持続しない。
 鉄也の容態を代行するように、グレートが片膝を着く。
「鉄也っ!」
「鉄也さんもう良い! ブレーンコンドルで脱出して俺に代われ!」
「そうよ鉄也さん! 甲児君にグレートを……」
「だ……駄目だ!」
「どうしてっ!?」
「どうやら、さっきの爆発で分離機能が死んでしまったみたいだ……!
 選手交代は、させてもらえそうに無いぜ……!」
『――――!』
 その場の全員に、絶望が生まれ――――

「死ねい、剣鉄也!」
「光子力ビーム!」

 ――――ヴンッ! ギィィィンッ!

「ぐわっ!」
 Zから放たれた光子力ビームが、グレートのスクランブルダッシュを切り落とす。
「もう見てられないわ! 私がアフロダイAで……」
「駄目だ! マジンガーにアフロダイで出て行ってもどうにもならん!」
「しかし所長、このままでは鉄也が……ビューナスAを出させて下さい!」
「君もだジュン君、気持ちは分かるが今は押さえてくれ!
 先ほど浅間の早乙女研究所に連絡を入れた、5分もしないうちにリョウ君達が来てくれる!」
「ゲッターチームが!?」
「だけど教授! このままじゃ鉄也さん、5分も保たねーよ!」
「むう…………」
 そう言っている間にも、アイアンカッターがグレートの右腕を切り落とした。
「これでとどめだ!」
「いくぞ、ブレスト……」
「いやぁぁっ、鉄也ぁっ!」
 ジュンの悲痛な叫びが木霊したその瞬間――――
 ――――闇が、満ちた。
 それは、混沌そのもの。無にして有、有にして無。暗黒が渦巻く中に、金色がたゆたい――――

「な…………何だこれは!?」
 目の前に生じた不可解な出来事に、弓教授が驚愕する。
 ちょうどグレートとZの中間から、その二体を飲み込むほどの巨大な闇が迸ったのだ。
「ぬぅっ……今一歩でグレートを仕留められる所で!」
「何事!?」
 そして、闇が弾けた。


 ――――――――ィィィォン!!


『――――――――!?』

 あまりの眩さに、その場の全員が目を逸らし――――視界が戻った時、一様に愕然とした。
 そこに居たのは、不思議な格好をした5人の人間。
 甲児たちも、現れた少女達も、何が起きたのか分からないと言う様に呆然としている。
 そんな折、栗色の髪の少女が、呆けた顔のままに叫んだ。
「な……なによこのデカブツはぁっ!?」

 〜第2章 Fire Wars!!〜 了。

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